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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)54号 判決 1974年9月18日

原告

小林工業株式会社

右代表者

小林鉄之助

右訴訟代理人弁理士

牛木理一

被告

汎洋商事株式会社

右代表者

伊藤迪

右訴訟代理人弁護士

石川欣弥

右訴訟復代理人弁護士

河野通彦

主文

特許庁が、昭和四十七年十二月七日、同庁昭和四一年審判第九、二八一号事件及び同庁同年審判第九、二八二号事件(併合)についてした審決は、取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  請求の原因

原告は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四十二年一月四日、被告を被請求人として、被告が商標権者である別紙記載のとおりの登録第六三四、一七三号商標及び登録第六二六、一二〇号商標(以下「本件登録商標」という。)について、登録無効の審判を請求し、昭和四一年審判第九、二八一号事件及び同年審判第九、二八二号事件(併合)として審理されたが、昭和四十七年十二月七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、昭和四十八年四月十九日、原告に送達された。

二  本件審決理由の要点

本件登録商標中、登録第六三四、一七三号商標は、「MERRY WOOD」の文字を一連に横書してなり、商標法施行令第一条別表第十三類手動利器を指定商品とし、昭和三十七年十月二十三日商標登録出願、昭和三十九年一月十六日登録がされたもの及び登録第六二六、一二〇号商標は、「MERRYWOOD」の文字を一連に横書してなり、商標法施行令第一条別表第十九類フォーク、スプーンを指定商品とし、昭和三十七年十月二十三日商標登録出願、昭和三十八年十月八日登録がされたものであ〔る〕。<中略>

請求人(原告)は、登録無効の審決を求める理由として、「本件登録商標の「MERRYWOOD」における「MERRY」も「WOOD」も、前者が、楽しいという意味の形容詞であり、後者が、木、木材、森及び林という観念の名詞であつて、ともに人口にかいしやされている言葉であるから、本件登録商標は、「MERRY」と「WOOD」とに分析することもできる商標である。したがつて、本件登録商標と請求人(原告)の有する前記(一)から(十八)の商標の「LUCKY WOOD」又は「WOOD」に酷似しているといわなければならない。特に、これら請求人(原告)の商標は、洋食器(ナイフ、スプーン及びフォーク)の業界において、「LUCKY WOOD」の名で本国は勿論諸外国においても広く知られているものであるが、この請求人(原告)の商標の「LUCKY WOOD」と本件登録商標の「MERRY WOOD」とは、前者の「LUCKY」が幸運なという意味であるに対し、後者の「MERRY」が楽しいとか愉快なという意味であり、ともに、明るく、楽しい、幸せな感じを表す言葉として共通性をもつているから、このような、明るく、楽しい幸せな感じを代表するような「LUCKY」と「MERRY」という、外国人の間で特に好んで使われる二つの形容詞を考えるとき、そして、これらの両語がいずれも「WOOD」という同一の名詞と結合しているものであることを考えるとき、「LUCKY WOOD」と「MERRY WOOD」とは、外観、称呼及び観念のいずれからみても、酷似のものである。このことは、北日本洋食器株式会社が、MERRY/WOODなる商標を被請求人(被告)の許諾を得たと称して飲食用ナイフに使用していることに徴しても、明らかである。ところで、「MERRY WOOD」なる登録商標を、被請求人(被告)がもつていることが判明したのは、この商標を表示した飲食用ナイフ、スプーン及びフォークがオーストラリア市に大量に出廻つていること、そのデザインも請求人(原告)の専有するそれに酷似している旨バイヤーからの書翰によるものであり、この事実に徴しても、本件登録商標は、請求人(原告)の有する「LUCKY WOOD」を十分意識して、不正な競争を行おうとする意図にでたものであることが明らかである。したがつて、本件登録商標は、商標法第四条第一項第十一号に該当し、同法第四十六条によりその登録を無効とすべきものである。」旨主張した。

これに対し、被請求人(被告)は、「請求人(原告)は、一見明瞭な一連不可分の構成になる本件登録商標の「MER-RYWOOD」を、無理に「MERRY」と「WOOD」とに分析して議論を展開しているが、これは本件登録商標を請求人(原告)の専有する引用登録商標に接近させようとして不自然な類否判断をしているものである。このこと(両者が類似しないこと)は、前記(一)の商標と(二)の商標(又は前記(十)の商標と(十一)の商標)の「WOOD」は、互いに連合する商標であるが、前記(三)の商標(又は前記(四)の商標)の「LUCKY WOOD」とは連合していないと同時に、前記(三)の商標(又は前記(四)の商標)に関しての連合は、登録第四五六、〇九四号商標、前記(六)から(九)及び前記(十六)から(十八)の商標(又は前記(六)及び(七)の商標)となつていることからみても明白である。また、登録第二三〇、一七一号商標(又は登録第五〇〇、八四八号商標)の「LUCKY」に対し、登録第二五二、五四五号商標(又は登録第六〇九、六四八号商標)の「MERRY」が単独の登録例として現存すること及び「LUCKY」の既登録商標に対し、「LU-CKY WOOD」の商標が単独の商標として登録されていることは、「LUCKY WOOD」の商標を一連の造語的商標とみるを妥当とすると同時に、本件登録商標の「MERRYWOOD」も当然一連にした造語的商標とみるのが妥当である。したがつて、本件登録商標の「MERRY WOOD」と引用登録商標の「LUCKY WOOD」とは、外観上全く相違するとともに、称呼及び観念上も非類似のものであることは極めて明白である。被請求人(被告)が出荷販売するオーストラリア市の有限会社ニューフイツロイ貿易社は、本件登録商標と同一構成よりなる「MERRY WOOD」の商標権を濠州連邦において専有するものであり、本件登録商標が同国において請求人(原告)の商品と誤認、混同を生ずるいわれはないから、被請求人(被告)が不正競争の目的をもつて本件登録商標を使用しているとの請求人(原告)の主張は、言語道断である。」旨答えた。

よつて、按ずるに、本件登録商標は、前記のとおり「MERRY WOOD」の文字を横書してなるものであるが、その「MERRY」の文字と「WOOD」の文字とは表現態様上引用登録商標の「LUCKY」と「WOOD」又は「ラッキー」と「ウッド」における(両者の間に約一字分程度の間隔があるもの、棒線を介して上下二段に記したもの及び「&」又は「アンド」の文字を介して横書したもの等)とは異なり、同大一連に記されているばかりでなく、その「MERRY」と「WOOD」との間には、語義においても「たのしい森」として結合すべき密接な関係があるとともに、語呂においても「メリーウッド」とよどみなく称呼され、これを分離して称呼及び観念すべき特別の事情もないから、本件登録商標は、この両者を結合一体のものとして「メリーウッド」と称呼及び観念(楽しい森)されるものというを自然とする。これに対し、引用登録商標は前記のような構成の態様上「ラッキーウッド」又は「ウッド」の称呼及び観念(幸福の森又は森)を生ずるものとするを自然とするから、本件登録商標と引用登録商標とは、外観においては勿論のこと、称呼及び観念においても相紛れるおそれのない非類似の商標というを相当とする。この点について請求人(原告)は、本件登録商標における「MERRY WOOD」と、引用登録商標における「LUCKY WOOD」とにおいて、その「MERRY」も「LUCKY」も、ともに、明るく、楽しい、幸せな感じを表す言葉として外国人の間では特に好んで使われる二つの形容詞であり、しかも両者がいずれも「WOOD」と同一の名詞と結合しているものであることを考え併せるとき、「LUCKY WOOD」と「MERRY WOOD」とは酷似のものである旨主張するが、その「MERRY WOOD」と「LU-CKY WOOD」において、前者の「MER-RY」と、後者の「LUCKY」とは、ともに一般に親しまれ、確然と区別された称呼及び観念を有する語であるから、これが、「WOOD」なる共通の語と結合したとしても、両者は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても互いに相紛れるおそれのない非類似の商標というを相当とする。したがつて、この点に依拠してする請求人(原告)の主張は、採用することができない。

したがつて、本件登録商標は、商標法第四条第一項第十一号に該当するものとし、その登録を無効とすべき限りでない。<以下略>

理由

(争いのない事実)

一本件に関する特許庁における手続の経緯、本件審決理由の要点、本件登録商標及び引用商標のそれぞれの構成、指定商品並びに登録出願及び登録の年月日がいずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二本件審決は、本件登録商標は、結合一体のものとして「メリーウッド」と称呼、観念(楽しい森)される、という前提に立つて、引用商標は、「ラッキーウッド」又は「ウッド」の称呼観念(幸福の森又は森)を生ずるから、両者相紛れるおそれのない非類似の商標であると判断したが、この判断は誤りであること、以下に説示するとおりである。すなわち、

前記当事者間に争いのない事実によれば、本件登録商標は、別紙記載のとおり、これを構成する文字は、M・E・R・R・Y・W・O・O・Dの各欧文字が、同一書体、同一の大きさ及び同一の間隔で、一連かつ一体に横書してなるものであることを認めることができるが、前記欧文字からなる本件登録商標を機械的に発音する場合でも、我が国における欧語、特に英語の普及の度合いからみて、本件登録商標を構成する文字の前半部分に当たる「MERRY」は、英語で、「陽気な」あるいは「楽しい」の意味を有する単語であり、後半部分に当たる「WOOD」は、英語で、「森」の意味を有する単語であり、本件登録商標はこの二つの単語からなるものであるから、これを「MERRY」と「WOOD」とに分けることもできるものであることを、一般世人において容易に理解するものと認めるのが相当であり、しかして、本件登録商標を、「メリーウッド」と結合体のものとしてのみ理解されるべきものであるとする特段の事情の認むべき証拠のない本件においては、本件登録商標は、「メリーウッド」(陽気な森あるいは楽しい森)のほか、「ウッド」(森)の称呼、観念を生ずるとみるを相当とする。

本件審決は、引用商標からは、その構成の態様上、「ラッキーウッド」(幸福の森)又は「ウッド」(森)の称呼、観念を生ずるとしながら、本件登録商標は、「MERRY」と「WOOD」を結合一体のものとして、「メリーウッド」と称呼、観念されるものというを自然とするとするが、なぜそれが自然とするかの理由は全く明確でない。(あるいは、引用商標において、「LUCKY」と「WOOD」との間に一字分程度の間隔があることを捕えて、右のような判断に及んだものかとも推測されるが、称呼、観念に関する限り、一字分程度の間隔があるかないかを問題にするのは混乱といわざるをえない。けだし、「LUCKY」も「WOOD」も比較的短い英文字であり、しかも、前者が形容詞であることもあつて、一般にはこれに接した場合、一字分程度の間隔の有無にかかわらず、一連に、あるいは各別に、称呼し、又は観念するを通例とすると認められるからである。)

叙上のとおり、本件登録商標からは、「メリーウッド」と称呼、観念(楽しい森)されるものであり、「ウッド」の称呼、観念を生ずるものではないとした本件審決の認定ないし判断は誤りであり、引用商標が「ラッキーウッド」の称呼、観念(幸福の森)のほか「ウッド」の称呼、観念(森)を生ずべきものであることは被告も認めて争わないところであるから、本件登録商標と引用商標とは、いずれも前記「ウッド」の称呼、観念を生ずる点において、互いに類似するものというべく、したがつて、両者が称呼及び観念においても類似しないとした本件審決は、その判断を誤つたものというほかはない。

(むすび)

三以上説示したとおりであるから、その主張の点に違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 中川哲男 秋吉稔弘)

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